2010年02月22日(月)
読売新聞夕刊で、橋本治さんが「女流義太夫の魅力を語る記事」が掲載
2010年(平成22年)2月22日(月) 読売新聞夕刊で、橋本治さんが「女流義太夫の魅力を語る記事」が掲載。

【以下記事】
作家、橋本治氏がプロデュースしたDVD「女流義太夫 人間国宝 竹本駒之助~ひらかな盛衰記より神崎揚屋の段」が発売された。解説者として出演もした橋本氏に、女流義太夫の魅力を聞いた。(多葉田聡)

伝統芸についての著作も多いが、女流義太夫を初めて聞いたのは4年前。「義太夫は男がやるもの」と思っていたが、三味線の鶴沢寛也が主催した会で駒之助の語りを聞き、「本当にびっくりした」という。

「駒之助さんは文楽の太夫もできるが、基本は素浄瑠璃。人形に頼らないから、語りがストレートに迫ってきて、絵が見える」

だが、女流義太夫は今、「やる人より観客の方が少ないかもしれない」厳しい状況。広く親しんでもらおうと、義太夫を音楽として楽しむ会を寛也と共に開き、解説役を買って出た。今回のDVDは、その延長だ。

「義太夫も音楽だから、慣れないと良いも悪いもないが、近代になって学者が研究を始めてから難しくしてしまった。ある程度下地ができると、体の中で良さが爆発する瞬間がある」

「ひらかな盛衰記」は源平の合戦が題材。収録した「神崎揚屋の段」では、合戦に出ようとする梶原源太が、恋人で遊女の梅ヶ枝に預けた鎧を取りに行くが、梅ヶ枝は源太が廓に通う金を作るため質に入れていた。鎧がないと出陣できないため、困った梅ヶ枝は伝説の鐘に見立てて手水鉢をたたく。すると、廓の2階から小判が降ってくる。

実は小判は源太の母がまいたもので、梅ヶ枝と姉の敵討ちが絡むなど物語は複雑だが、核心はおとぎ話だと橋本氏は言う。腰元から身を落としても絶望せず、源太に恋する梅ヶ枝は「お姫様」。勘当され、梅ヶ枝に頼る源太は生活力のない「王子様」という解釈だ。

「物語は矛盾だらけだが、おとぎ話だと思えば許せる。
 今なら原稿をチェックする編集者や校閲者がいるが、昔の作者は幸いです」

恋に夢中な二人の描かれ方も、江戸時代独特の人間観に根ざしていると見る。

「人は恋をするとバカになるという認識は多分、地球上で最初に江戸時代の日本人が見いだした。
 西洋人はそういう考え方をしないから『ロミオとジュリエット』のような悲劇を作れる」

色男として描かれる源太は今時の「草食系男子」という指摘も、氏ならでは。

「いい男は昔から皆、草食系。自分から何もしない。肉食系は、やぼな悪党。草食が正しい美学なんです」

音楽性豊かな義太夫と目からウロコの解説。2度びっくりのDVDだ。
発売元はジェイブイディー(電話:03-3409-9920)

(2010年2月22日 読売新聞)